合縁奇縁

根がオタクなんです

私を歩かせているのは誰だろう / 劇団鹿殺しストロングスタイル歌劇「俺の骨をあげる」

 

びっっっっくりするくらい泣いた。

こんな泣く?って思うくらい、まず開始10分で泣いて、後半はほぼずーっと泣いてました。

 

悲しいのにあたたかい。

可笑しいのに切ない。

頭から斧で殴られたようなショックと、お母さんに優しく抱きしめられているような穏やかさが共存している不思議な空間。

こんな、なんとも形容しづらい感情があるんですね。

きっとこれが、"魂が揺さぶられている"ということなんだろうと、貴重な体験でした。

千秋楽も終わったのでいいかなぁとも思うのですが、一応、舞台の内容に触れていますので「DVD買うんじゃ!*1」という方には、もしかすると耳にいれたくない情報もあるかもしれませんので、ご注意ください。

 

 

<ストーリー>

ストロングスタイル歌劇「俺の骨をあげる」』と題された本公演は、1人の女とその骨となって生きた5人の男達の人生を音楽で描き、劇団鹿殺しの代名詞となる”音楽劇スタイル”を確立した代表作『音楽劇「BONE SONGS」』(2013年 上演)を大胆にリメイクしパワーアップさせたもの。骨を形作る男たちをより色濃く描き出すオリジナルストーリーが、強靭な肉体、そして生バンドを迎え、唯一無二のストロングスタイル歌劇としてよみがえる。

劇団鹿殺し本公演『俺の骨をあげる』に相葉裕樹、伊万里有の出演が決定 骨となって生きた5人の男達を描く | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス

 

タイトルやあらすじではあまり想像つかないと思いますが、「俺の骨をあげる」は、売れないプロレスラーの娘・辛島タエが、大切な人たちの死を受け止め前進していく生涯を見届ける舞台です。

鹿殺しさんの舞台はずっと観たいと思っていたので、今回、相葉さんの出演を機に観劇できてすっごく嬉しいです。

鈴木裕樹さんの『おたまじゃくし』を観なかったことは、未だに後悔しています。

 

客演ですし、相葉さんの総出演時間にはそんなに期待していなかったのに・・・なめてた。

そうですよね、鹿殺しさんって、そういう舞台なんですよね。

一人二役、三役四役・・・いいえ、19人で99役をやってのけてしまうくらいですから、相葉さんもそりゃ〜出てくる出てくる。

初めはみんな探り探りだった少し緊張感のある空気が、すこーしずつ"あったまっていく"あの感じ、舞台のいいところですよね。

 

私は、『ラスボス戦で主人公が今まで戦ってきた敵たちが味方となって力を貸してくれる』展開が大大大好きでして。

タエの骨となった男たちはもちろん敵ではありませんが、間違いなくタエの一部となって生きている。

「お母さんのために」とプロレスを始めた一人息子・歩の試合で、亡き父・てんやもんウルフのテーマとともに骨たちを引き連れ登場するタエの姿を思い出すと、今でも泣けます。

母としての姿を見せるタエの演説はお父さんにそっくりで、不器用なところまで似てしまったんだなぁと、やっと母になることができた"小さな女の子"が愛おしく思えました。

 

タエは強い。強いです。

私には、到底できないことです。

「自分」を生きるので精一杯。

誰かの命を背負って、責任のもとに生きるなんて、そんな度量も見聞もありません。

いや、もはや、私は「自分」すらも生きていないのではないか、と不安になることもあるくらいですから。

 

umax0212.hatenablog.com

 

自分としての喜びや悲しみを、受け止められない残念な人間です。

誰かの喜びを必要以上に感じて、誰かの悲しみを必要以上に間に受けて、そうして勝手に潰れていく。

我ながら、無責任な生き方だと思います。

それでも、そんな私でも、無意識とはいえ私の足で、私の人生を生きている。

私の足は、一体誰の骨でできているんだろう、なんて、まだまだ青い私には、答えが出ません。

えー、完全に私事ですが、私は生まれつき左目がほとんど見えないという逆千歳千里女でありまして。

右目は普通に見えるので、日常生活にほとんど支障はないのですが、千歳が右目側のフォアサイドにボールを打たれると返せないという状況は、ものすごくよくわかります。

3歳から牛乳瓶の底のような眼鏡をつけ、手術を行い、左目で見る矯正訓練を泣きながら続けたあの頃を思い出すと、両親はめちゃくちゃ健在なので骨までとは言わずとも、私の目は二人の汗と涙くらいからはできているのかもしれないなぁなんて、思ったりしました。

 

タエの足の骨は、一人息子の歩でした。

そうして歩の骨で、大切な人たちの死を背負いながら「歩」いていこうと決意したタエの背中は、彼女の父・右近と重なって見え、なんてかっこいいんだろうと、この人は絶対に死んではいけないんだと、命の在り方について深く考えさせられる作品でした。

 

元卓球の王子様選手でありタエの夫・秀二

とても人間らしくて、不器用な人。

や〜〜〜っぱり相葉さんがあの長い手足を広げてセンターに登場すると、どうしてあんなに舞台がキラッキラになってしまうんでしょうか。

これ、贔屓目なんですかね。

秀二の初登場シーン、心臓がドドドドドと早鐘を打ち、血と汗まみれだったステージがあっという間にお花畑になってしまったのですが・・・私にだけそう見えているんですかね。

しかしまさか、2018年に相葉さんのヘビーレイン(仮)を聴けるとは思っていませんでした。

10代目不二くんの本家を最近聴いたばかりなので、余計に笑えます*2

これ、初演の姜さんではどういった演出だったんですかね。

テニスのパロディはあったみたいですが、今回は相葉さんだからヘビレだったんだと勝手に思ったので、少し気になりました。

この作品は、妻・タエに共感する人と、夫・秀二に共感する人の真っ二つに分かれると思うのですが、私はどちらかというと秀二に心を寄せてしまうタイプです。

体の弱い歩をおいて、自分の大切なものを成し遂げようとするタエの姿は、きっと世間のお母さんたちには理解できないような行為だと思います。

それでも、タエに嫌悪感を抱かないのは、チョビさんの為せる技なんでしょうか。

秀二は何度も、タエにバンドを辞めて主婦になるよう諭しますが、本当にそれは心から望んでいたのかなぁと。

それは、「父親」の秀二がそうさせたのであって、ただの「秀二」は、心の底ではタエの望みを望んでいたのではないかと。

だって、秀二はそんなタエだからこそ好きになったんですから。

秀二は、タエより少し早く「親」になっていたんだと思います。

もしタエと結婚していなければ、もしタエの初恋の相手が自分の実の兄ではなければ、タエの望みを素直に全力で応援できたのではないかと、想像せずにはいられません。

「いいぞ辛島さん!僕のデータによると、君が武道館に立つ確率、100%だ!!」とか言って。

前回の記事で「おそらく秀二くんは、うざやかおバカナルシストではないとは思いますが」とか言ってたら、当たり前のようにうざやかでびっくりした。

 

 

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長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。

最後に、「劇団鹿殺し」というおどろおどろしい劇団名の由来である詩人・村野四郎の「鹿」に想いを馳せながら、エンディングとさせていただきます。

「俺の骨をあげる」を観劇された方は、ぜひ一読していただきたいです。

あの短い文の中に、命の偉大さや美しさが詰まった、短いからこそその刹那を感じるような、そんな詩です。

 

私を歩かせるこの足の骨は誰なのか、いつか答えが見つかるといいな。

 

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次は豪華客船、乗ってきます。

*1:<先行特典付き>劇団鹿殺し ストロングスタイル歌劇「俺の骨をあげる」DVD | 「子鹿商店」劇...

*2:そっちの感想記事も書きたいんですが・・・テニスを記事にするのって、めちゃくちゃ難しいんですね